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山椒の実

実力も運のうち 能力主義は正義か? (マイケル・サンデル)

「トロッコ問題おじさん」と呼ばれる可能性があった著名な教授による本。かなり話題になっていた。

学歴面でもそうだが、宗教的価値観というか。この人が引き合いに出すのはキリスト教だけど、我々も因果応報とか、そういう言い方がある。良いor悪い偶然をそれまでの行いと関連付けて評価することの是非。実際はランダムな偶然に過ぎない。偶然の勝者が正義を称して優越に浸るための理論。理論通りのような優越感。それが問題になる。謙虚であれ、と。

アメリカでもトップ校の大学入試は苛烈で異常な競争になっているらしく、ある程度の足切りをしてあとはくじ引きでいいじゃん、というのはまあ悪くはないんだけど、実現は困難だろうな。公正な競争と言い難く、得られる利益が変わるからな。政治家の選挙で同じことをしたらどうか。ある程度の得票があればあとは細かいことは言わずにくじ引きで、なんてことを大統領選でやって納得を得られるのかな? と。

欧米は大学進学率が低いんですね。そして政治家になるのが少数派の大学卒業者ばかりという偏りの問題があったりする。まあ選挙制度とか党派があって、政治家の構成に社会の構成を反映させるのは困難な話ではある。数学的にモデル化できないかなー

それで、封建制の世襲の社会から能力主義社会に移っても上と下の格差は縮まったわけではなく、能力主義による格差が能力(才能x努力)に基づくものではないとしたら、それは正義なのかどうか、というのがこの本の問いになる。アメリカンドリームという言葉があるように、実際に能力主義を押し出す国であっても階級が固定化していて、ヨーロッパと比べても流動性が低いらしい。アメリカンドリーム…もはや死語なのか。

勝者のおごり、敗者の屈辱。心に刻んでおこう。勝者というほど勝者でもなく、敗者というほど敗者でもない自分だが、今後の人生を良い方向に導いてくれるような本だった。

訳者あとがきで、訳語の混乱について説明があった。文化の違いもあるのか、meritの扱いがね。私は成果主義のほうが馴染みがあり、本書での能力主義と同じに思えた。