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山椒の実

DEEP THINKING ディープ・シンキング 人工知能の思考を読む (ガルリ・カスパロフ)

あのカスパロフが書いた、AIの本。最近になってAlphaGo事件もあったから、再び脚光を浴びる。幅広く活躍されてますね。私も何となく思っていたことが言語化された面もあり、ディープブルーとの試合やそこに至るまでの道のりが、一方のプレイヤー側の視点で語られる。あまり知られてないよな、この話。単に専用ハードをガリゴリやってパワー勝負でチャンピオンに勝ち、人類が機械に破れた…という物語ではない。我々はそういう印象を持たされてはいるけれども、実は違うんだ。だいたい1年越しの1勝1敗の時点で、IBMが勝ち逃げするために機械をブッ壊してしまったという、割と情けない結末。しかもカスパロフは不利な条件で戦った上に凡ミスで負けてるんで。会話を盗み聞いたり、スパイ的な手段も使ったらしい。

まぁそれがなくても機械が勝つようになるのは時間の問題だったし、IBMの人たちも、専用ハード方式ではすぐに他のAIに勝てなくなると知っていたんだろうけどね。知見もあまり公開しなかったし、人類の発展への寄与としては寂しい限り。徒花、って言葉はこのケースで適切だろうか? そのあとIBMは雌伏の時を経てワトソンでAI先端に復帰したのは見事だと思う。ワトソンは割と実世界でも活躍してるようだし。

ところでAIの本には必ずジョン・ヘンリーという人物が登場する。本書も例外ではない。カスパロフはジョン・ヘンリーに連なる人物でもあり、しかしそれだけに終わってないというところの対比も感じた。破れて(実際にその時に破れたという評価はできないけれども)なお活躍を続けているし、達人的な思考能力。並の人物ではなかったのだな。

自分は時折ジョン・ヘンリーを目指しているのかと思うこともある。なんで俺はこんな単純作業が上手いんだろう、と。超絶優秀な計算機屋としては無駄な能力で、凡庸〜そこそこ優秀な計算機屋としては必須の能力。

カスパロフの言うとおり、AI…知性を探求する道を目指さなくなったというのは嘆かわしいところ。人間が楽しめるレベルの完全情報ゲーム(チェスみたいな)は実は単純すぎて、知性とも言えない計算だけで計算機が上回れるという現実。画像認識なんかもそうなのかな。計算だけで人智を超えて神になれるのに、あえて知性を求める奴はいない…残念な話よね。あいつらをAIと呼ぶことの違和感は実際大きい。ほとんど全員が問題意識を持っているはずなんだけど、用語や名前の問題ってのは結局のところ…解決不可能なんだよね。

アドバンスドチェスの意義もよくわかったよ。言葉と内容は一応聞いたことがあって、それ意味あんの? と思ってたけど。あれは人間と機械のミックスのベストバランスを探っていたわけだ。超絶優秀な機械それ自身は超絶優秀な人間よりも強いけど、だからって最強なわけじゃない。人間と機械が組むとして、どういう能力を割り振れば最強になるのか。なるほどねえ。

解説を羽生さんが書いてて、人選は完璧だったと思うが、内容は普通だった。